「財布を触るとベタベタする」「引き出しから出したら黒いものが手に付いた」——これはブランド財布を持つ方から最も多く寄せられるご相談の一つです。見た目はまだきれいなのに、触ると気持ち悪いあのベタつき。原因は何で、どこまで自分で対処できるのか、正直にお伝えします。
ベタつきの正体:PUコーティングの加水分解
ほとんどの場合、ベタつきの原因はポリウレタン(PU)コーティングの加水分解です。多くのブランド財布(特にバッグの内装、財布の内側、エナメル加工品)には、革の保護や光沢の付与のために薄いポリウレタン層が塗布されています。このPUが、湿気と時間と熱によって分解を起こし、べたつき・ぼろぼろと剥落する——これが「加水分解」という現象です。
化学的には、PUポリマー内のウレタン結合が水分子と反応して切断される反応です。温度が高いほど、湿度が高いほど、反応は加速します。日本の高温多湿の夏は、この劣化を著しく促進させます。そして重要な点は、加水分解はある時点を過ぎると急速に進むということです。最初にわずかなベタつきを感じてから、半年で表面全体が崩壊することも珍しくありません。
やってはいけないNGケア5選
1. ウェットティッシュや赤ちゃん用おしりふきで拭く
「アルコールフリー」と書かれていても、界面活性剤や保湿成分がPUの劣化を加速させます。また水分自体が加水分解の原材料であり、拭くことで劣化を進めてしまいます。
2. アルコール系クリーナーで除菌する
除菌スプレーや消毒液はPUだけでなく、天然革の油脂も溶かします。コロナ禍で財布をアルコール消毒した結果、ひと夏でボロボロになったというケースが急増しました。
3. ビニール袋に入れて保管する
密封すると内部に湿気が閉じ込められ、加水分解を起こしやすい環境になります。また結露が発生し、カビの温床にもなります。
4. 車のダッシュボードや直射日光の当たる場所に放置する
熱は加水分解の触媒です。夏の車内温度は70〜80℃に達することもあり、PUコーティングにとっては致命的な環境です。
5. 油分の多いクリームを厚塗りする
「革が乾いているから」と水分・油分ともに高いクリームを大量に塗ると、表面の過湿状態を作り、加水分解を促進します。革製品のケアは「少量を薄く、こまめに」が原則です。
自分で対処できるか、プロに頼むべきか
ベタつきが表面の一部分に留まり、かつ剥落が始まっていない初期段階であれば、ドライクロスで丁寧に拭き取ることで一時的に改善することがあります。ただしこれは根本解決ではなく、時間稼ぎに過ぎません。
剥落が始まっている場合、または触れた手に黒いカスが付く場合は、家庭での対処は不可能です。このフェーズではPU層を完全に除去し、革の素地を整えた上で新たなコーティングを施す専門技術が必要です。私たちが行う修復では、古いPU層の機械的除去→革表面の洗浄→保護コート塗布という工程を経て、健やかな状態に戻します。
「まだ使えるかな」と迷っているうちに、劣化は進みます。気になる症状があれば、早めにご相談ください。

