一つのラグジュアリーレザーバッグが、あなたの手に届くまでの旅を想像してみてください。南米のアルゼンチンやブラジルで育てられた牛。その皮は船でヨーロッパへ渡り、イタリア・トスカーナ州のタンナーで数週間から数ヶ月をかけて鞣されます。金具はフランスや中国の工房で鋳造・メッキされ、ストラップや取っ手のパーツは別の工房で仕立てられる。パリやミラノのアトリエで熟練した職人が40〜60時間かけて縫い合わせ、ブランドの箱に入れられ、また世界中に輸送される。
その過程で使われる水の量は、革のなめし工程だけで一枚の革あたり数千リットルに及ぶといわれています。使用される化学薬品、消費されるエネルギー、排出されるCO₂——ラグジュアリーレザー製品一点の環境負荷は、私たちが日常的に使うほとんどの製品と比べて、桁違いに大きいのです。
関わる職人の作業時間(時間)
使われる水の推計量
届くまでの渡航国数
修復の方程式——小さな投資で、大きな寿命を
では、修復にはどれほどの資源が必要でしょうか。ジッパー交換には数グラムの金属パーツと数センチのガイドレール。コーナー補修には革充填剤数グラムと染料数ミリリットル。縫い直しには数メートルの糸。これだけの材料で、バッグの寿命を5〜10年延ばすことができます。
フルリストレーション(全体的な修復)であっても、使用する資材の総重量は数十グラム程度です。これを先ほどの「製造の旅」と比べてみてください。修復の環境コストは、製造コストの数百分の一以下です。
リペアの経済効果と環境効果の試算
8,000円のジッパー交換 → 寿命が5〜10年延長
30,000円のフルリストレーション → 寿命が15〜20年延長
20年使えば、製造時の環境負荷を年割りで大幅に分散できます。リペアを選ぶことは、環境への負担を薄め続けることを意味します。
SDGsとの接点——ラグジュアリーリペアが貢献できること
SDG 12 — 責任ある消費と生産SDG 13 — 気候変動対策
国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)のうち、私たちの仕事が直接貢献できるのはこの2つです。目標12「つくる責任 つかう責任」は、製品のライフサイクルを延ばし、廃棄を減らすことを求めます。修復は、まさにこの実践です。目標13「気候変動に具体的な対策を」については、製造プロセスを経由しないリペアは、CO₂排出量の増加を直接的に抑制します。
高級品産業は、その製品の希少性と品質の高さゆえに、環境フットプリントも大きい。だからこそ、ラグジュアリー品の寿命を延ばす取り組みは、環境的な影響力も大きいのです。
結縁地の具体的な取り組み
私たちは、理念だけでなく日々の作業の中で環境への配慮を実践しています。
低VOC・水性製品の優先使用:揮発性有機化合物(VOC)の排出が少ない水性溶剤や水性染料を優先的に選択しています。これはアトリエ内の空気質の向上にもつながります。廃棄材料の分別と最小化:施術に使用した布やスポンジ、革の端材は素材別に分別し、可能な限り再利用します。日本国内メーカーとの取引:輸送距離の短縮という観点からも、国産の資材・薬品メーカーを優先しています。
私たちが目指しているのは、修復という選択が「当たり前」になる社会です。ものを大切にすることが、地球への敬意と同義である世界。結縁地はその小さな一歩として、毎日職人台の前に立ち続けます。
一本のバッグを直すことは、小さな行為です。でも、その積み重ねが、次の世代が暮らす地球の形を少しだけ変えていくと、私たちは信じています。

